「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくガリア戦記

第一段

テキスト

Gallia est omnis divisa in partes tres, quarum unam incolunt Belgae, aliam Aquitani, tertiam qui ipsorum lingua Celtae, nostra Galli apppellantur. hi omnes lingua, institutis, legibus inter se differunt. Gallos ab Aquitanis Garunna flumen, a Belgis Matrona et Sequana dividit. horum omnium fortissimi sunt Belgae, propterea quod a cultu atque humanitate provinciae longissime absunt, minimeque ad eos mercatores saepe commeant atque ea quae ad effeminandos animos pertinent important, proximique sunt Germanis, qui trans Rhenum incolunt, quibuscum continenter bellum gerunt. qua de causa Helvetii quoque reliquos Gallos virtute praecedunt, quod fere cotidianis proeliis cum Germanis contendunt, cum aut suis finibus eos prohibent, aut ipsi in eorum finibus bellum gerunt.

解説

それでは、少しずつ区切って、解説をしていきましょう。

Gallia est omnis divisa in partes tres

「ガリアは、全部で三つの部分に分かたれていた」。つまり、受動態の直説法完了時制ですね。divido, divisi, divisum, dividereは子音型丙型の標準動詞です。文法的には、特に問題ないと思います。ここでいう「ガリア」というのは、現代ラテン語ではフランスという意味で用いるように、だいたい今のフランスにあたる地域だと思っていただければいいんですが、当時はそれよりもかなり大きくて、ベルギーやルクセンブルク、それからドイツのライン左岸あたりまで張り出しています。詳しい話は、追々出てきます。

quarum unam incolunt Belgae

pars, partisが女性なので、複数属格の関係代名詞はquarumとなるわけですね。また、incolo, incolui, incultum, incolereは、aliquid incolo「どこどこに住む」という感じで、対格を目的にとります。unamとなっているのは、そういうわけです。Belgaeは、現代のベルギー人との断絶を強調するために「ベルガエ人」と訳されるようですが、現代ラテン語ではベルギー人の意味になります。私なんかは、昔のことより現在のことのほうに興味があるので、現代のベルギー人の顔や体格を思い浮かべながら読みます。別に、訳読会ではないので、各自でこれだというイメージをつけて読めばよいと思います。

要するに、ベルギウム(Belgium)、つまり、今で言うベルギーの辺りに住んでいる人々だと分かればいいです。これも、今よりかなり広いんですが、詳しい話は追々。なお、ベルギウムはガリア・ベルギカ(Gallia Belgica)とか、あるいは単にベルギカ(Belgica)とも言います。

aliam Aquitani

「別の部分には、アクィーターニア人が住んでいる」。文法的には問題ないですね。あとで出てくるように、アクィーターニアは、今のフランス領の中でも今のスペインに近い辺りです。現在でも、アキテーヌ(Aquitaine)という地名として残っていますね。ボルドーなんかがある辺りです。

tertiam qui ipsorum lingua Celtae, nostra Galli apppellantur.

ipsorum linguaは、auf deren Spracheということで、奪格ですね。したがって、linguaのaは長音です。nostraは、auf unserer (Sprache)ということで、これもaは長音です。「第三の部分には、彼らの言葉でケルト人、われらの言葉でガリア人と呼ばれる人々が住んでいる」ということですね。

hi omnes lingua, institutis, legibus inter se differunt.

hi omnesは、それぞれ、hic, haec, hoc、ominis, ominis, omneの男性複数主格ですね。この文の主語です。lingua, institutis, legibusは、「言語、制度、法律の点で」ということですから、ablativus respectusでしょう。結局、「これら三種の人々は、すべて、言語・制度・法律の点で互いに異なっていた」ということですね。

なお、differo, distuli, dilatum, differreは、分離を示す接頭辞である「dis-」と不規則動詞「ferre」の合成語ですから、ferreに準じた不規則な変化(differo - differs - differt - differimus - differtis - differunt)をします。ご注意ください。

Gallos
ab Aquitanis Garunna flumen,
a Belgis Matrona et Sequana
dividit.

構造を分かりやすくしてみました。Gallosは対格なので、目的語だとすぐ分かります。これを目的とする動詞はdividitで、これは、さっき出てきたdivido, divisi, divisum, divereの直説法現在時制の三人称単数ですね。対応する主語は、ab AquitanisについてはGarunna flumen、a BelgisについてはMatrona et Sequana (flumen)です。後者が単数なのは、マルヌ川からセーヌ川にかけてを、一つの「流れ」と見ているからでしょう。マルヌ川はパリでセーヌ川に合流します。

なお、川のラテン名とフランス語名は次のように対応します。

  • Garunna: Garonne(ガロンヌ川):Garumnaとするテキストもあります。
  • Matrona: Marne(マルヌ川)
  • Sequana: Seine(セーヌ川)

ということは、ベルガエ人はパリ辺りまで張り出していたということです。今のベルギーよりかなり広いですね。ちなみに、パリはラテン語でLutetiaといいます。

アクィーターニア人は、ガロンヌ川と属領ヒスパーニア(Hispania、現在のスペイン)にはさまれた辺りに住んでいたようです。

horum omnium fortissimi sunt Belgae

「これらのうち最も強いのは、ベルガエ人である」。特に問題ないですね。「強い」というのは、戦争で強いという意味です。

propterea quod a cultu atque humanitate provinciae longissime absunt,

propterea quod+直説法で、weilやbecauseの意味です。colo, colui, cultum, colereの中心的な意味はおそらく「畑を耕す」ということで、そこから「定住する」とか「手入れする・研鑽する」というような意味が出てきたんでしょう。colereの受身が名詞化したものがcultusです。辞書をひくといろんな意味が出ていますが、ここでは、「生活習慣」とか、「贅沢・豪奢」などという訳語が、単語のイメージとしては妥当でしょう。

プローウィンキア(provincia)というのは、通常「属州」と訳されていますが、ローマに服属してローマに編入されたイタリア外の地域です。abesseは、ここでは「不在」ではなく、文字通り「離れている」ですね。念のため。

minimeque ad eos mercatores saepe commeant atque ea quae ad effeminandos animos pertinent important,

eosはの男性複数対格ですが、Belgaeを指しています。commeo, commeavi, commeatum, commeareは、群集する・往来するという意味です。meareだけだと「歩き回る、行く」という意味ですが、それにcom (= cum)がくっつくと、「複数の人がともに」というイメージが付加されます。

eaは単なる中性複数の先行詞で、関係節の中にはゲルンディーウゥムが使われているので少し難しいですね。ad effeminandum animosとでもゲルンディウムに書き換えると多少分かりやすくなろうかと思います。effemino, effeminavi, effeminatum, effeminareは、中にfeminaが入っていますので、「女性化する(verweiblichen)」ということです。この部分をまとめて訳すと、「精神を女性化するのに適するもの」となります。

当時、戦争に行くのは男性とされていましたから、Caesarの頭の中では、「精神が女性化する=戦争に弱くなる」ということだったんでしょう。今では、女性も軍事の世界にどんどん参入しているので、そういうのはだんだんと古い考えになりつつありますが。

話を戻すと、地中海沿岸の南仏のあたりはローマの属州だったので、これに接するガリアとアクィーターニアは、商人がたくさんやってきたんでしょう。アクィーターニアについては、ヒスパーニアにも接していましたから、ヒスパーニアからも来たかもしれません(もっとも、間にピレネー山脈がありますが・・・)。これに対して、ベルガエ人の住んでいるところは、ローマの属州からかけ離れています。

proximique sunt Germanis,

理由の二つ目です。proximus, proxima, proximumは、「~に最も近い」という場合には与格をとるので、Germanisとなっています。主語はBelgaeです。

qui trans Rhenum incolunt,

「ゲルマン人はライン川の向こうに住んでいる」。ここで、ベルガエ人とゲルマン人の境界線がライン川だと分かります。現在のモーゼル川からコブレンツを経てライン川にかけてが、ベルガエ人とゲルマン人の境界線だったようです。ちなみに、コブレンツ(Koblenz)は、ラテン語のconfluens(合流)が訛ったもののようです。さっきのマルヌ川・セーヌ川線とあわせて考えると、だいたいベルガエ人の居住地域が見えてきますね。

quibuscum continenter bellum gerunt.

「ゲルマン人と継続的に戦争をしている」。主語は書いてませんがBelgaeですね。ゲルマン系の人々は、現在も屈強な体格をしていますが、昔もとても強かったわけです。ローマ帝国を滅ぼしたのも、ゲルマン人です。ゲルマン人に鍛えられている分、ベルガエ人も強かったわけですね。

gero, gessi, gestum, gerereは、きわめて守備範囲の広い語ですが、どうやら「担う」というのが核となる意味のようです。ここでは、「(戦争を)する」ぐらいの意味です。

qua de causa Helvetii quoque reliquos Gallos virtute praecedunt,

ヘルウェティー人(Helvetii)というのは、今でいうスイスの人々ですね。qua de causaは、ふつう疑問詞で「どういう理由で」という意味ですが、この場合は関係詞で、前文を受けています。

praecedo, praecessi, praecessum, praecedereは、「~に先行する」、「~に勝る」という意味の動詞で、対格をとります。reliquus, reliqua, reliquumは、「残りの」という形容詞で、reliquos Gallosは対格ですね。virtus, virtutisがvirtuteと奪格になっているのは、観点の奪格(ablativus respectus)でしょう。いうまでもなく、virtus「男性的であること(Mannhaftigkeit)」というのは、さっきの effeminoと対応していますね。

結局のところ、「前記の理由から、ヘルウェティー人もまた、男性的であること(つまり、戦争に強いこと)にかけては、他のガリア人を凌駕している」ということです。

quod fere cotidianis proeliis cum Germanis contendunt,

contendo, contendi, contentum, contendereは、不定詞とともに使うと「~するように努力する、気張る、頑張る」という意味になりますので、fereをうっかりferreと勘違いしてしまいそうです。しかし、そうではありません。fereは、「ほとんど(beinahe, fast)」という意味の副詞で、cotidianisに係っています。したがって、fere cotidianis proeliisは、「ほとんど毎日の戦争によって」となりますね。ですから、cum Germanis contenduntは本動詞で、「ゲルマン人と競っている」ということです。

cum aut suis finibus eos prohibent, aut ipsi in eorum finibus bellum gerunt.

何で戦争していたかという理由です。aut ... aut ...で、「あるいは~し、あるいは~する」、「~もすれば~もする」ということですね。Entweder ... oder ...とは違います。

指示語が多いので、いちおう丁寧に見ていきましょう。eosは男性複数対格ですが、イコールGermanosです。prohibeo, prohibui, prohibitum, prohibereは、「防ぐ、妨害する、禁ずる」です。suis finibusは、finibus Helvetiorumだと思えばいいです。ipsiは、複数主格で、Helvetii ipsiということですね。eorum finibusは、finibus Germanorumですね。

要するに、あるいはゲルマン人が領域侵犯し、あるいはヘルウェティー人が領域侵犯をする、それが戦争の原因となっているということです。

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らくらくラテン語入門

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19. 格変化のパターン・性・格の見分け方
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20. 複数の格変化(2)

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