「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくガリア戦記

第七段

テキスト

Caesari cum id nuntiatum esset eos per provinciam nostram iter facere conari, maturat ab urbe proficisci et quam maximis potest itineribus in Galliam ulteriorem contendit et ad Genavam pervenit. provinciae toti quam maximum potest militum numerum imperat – erat omnino in Gallia ulteriore legio una –; pontem, qui erat ad Genavam, iubet rescindi. ubi de eius adventu Helvetii certiores facti sunt, legatos ad eum mittunt nobilissimos civitatis (cuius legationis Nammeius et Verucloetius principem locum obtinebant), qui dicerent sibi esse in animo sine ullo maleficio iter per provinciam facere, propterea quod aliud iter haberent nullum: rogare, ut eius voluntate id sibi facere liceat. Caesar, quod memoria tenebat L. Cassium consulem occisum exercitumque eius ab Helvetiis pulsum et sub iugum missum, concedendum non putabat; neque homines inimico animo data facultate per provinciam itineris faciendi temperaturos ab iniuria et maleficio existimabat. tamen, ut spatium intercedere posset, dum milites, quos imperaverat, convenirent, legatis respondit diem se ad deliberandum sumpturum; si quid vellent, ad Idus Apriles reverterentur.

解説

さて、いよいよカエサル率いるローマ軍が登場して、面白くなってきました。

Caesari cum id nuntiatum esset eos per provinciam nostram iter facere conari,

CaesariはCaesar, Caesarisの与格ですが、cum節からはみ出していますね。これは、一種の強調です(Vorziehung des Objekts zur Hervorhebung)。「さあ主役の登場です!」ということで、力が入っているわけです。ちなみに、書いているのはCaesar自身で、こういう強調の仕方も、Caesarに特徴的な言い方のようです。

nuntiatum essetはnuntio, nuntiavi, nuntiatum, nuntiare(知らせる)の接続法受動態過去完了時制(三人称単数形)で、主語のidは後続するa.c.i.を指す仮主語です(本来n.c.i.がくるべきではないかと個人的には思うんですが、どうなんでしょう?)。

a.c.i.ですが、eosはいうまでもなくHelvetiosです。iter facereは、「行軍する」ということですが、iterがireから来ていることから考えれば、すぐに分かりますね。conariに係っていますから、まさに行軍しようとしているとき、という感じでしょう。

maturat ab urbe proficisci

maturareは「急ぐ(sich beeilen)」ですが、補助動詞的に用いられていますね。urbs, urbis (f.)は「首都」でローマ市のこと、倒錯動詞proficiscor, profectus sum, profectum, proficisciは「出発する」ですね。

et quam maximis potest itineribus in Galliam ulteriorem contendit

「quam + 最上級」は、以前も出てきましたが、「できるだけ~」という意味です。ここではpotestが入ってきていますが、これは冗言(Pleonasmus)です。「白い白馬」とか、「頭痛が痛い」とか、日本語にもありますよね。口がすべった言い方です。英語でもas fast as he canなどというので、入れたくなる気持ちも分かりますが。いずれにせよ、quam maximis iternibusと、奪格になっていますね。方法の奪格(ablativus modi)とでも解すればよいでしょうか。

in ... contendo (contendi, contentum, contendere)で、「~へ急行する(sich anstrengen eilen)」という意味です。この場合、動きを表しますから、inはもちろん対格をとります。ここでもきちんとGalliam ulterioremとなっていますね。ulteriorはulter, ultra, ultrum(向こう側の)の比較級で、「奥ガリア」のような感じでしょうが、具体的にはGallia Narbonensis属州のことを指しているようです。さきほどのnostra provinciaと内容的には同じです。

et ad Genavam pervenit.

そして、ジュネーヴに辿り着きました。ad ... pervenio (perveni, perventum, pervenire)で、「~に辿り着く」です。

ローマからジュネーヴまでの経路は700ローママイル(1050キロメートル)以上とされており、このときの行軍は毎日100ローママイル(150キロメートル)くらいだったと計算されています。信じられない速さです。フルマラソン3本半の距離です。ある程度の重量がある防具もつけていたはずですし、一体どうなっているのかという感じです。

provinciae toti quam maximum potest militum numerum imperat

impero, imperavi, imperatum, imperareは「号令する、命令する」ですが、少し進んで「~の調達を命令する」という意味になることがあります。これはその場合です。totus, tota, totumはやや不規則な格変化をしますので、ぜひ確認しておいていただきたいのですが、totiとなったら、単数与格通性か、複数主格男性のどちらかです。この場合は前者ですね。要するに、プロウィンキア全土にできるだけ多くの兵力の調達を命じるということですね。ここでも、冗言のpotestが入っています。

– erat omnino in Gallia ulteriore legio una –;

ここは難しくありませんね。omninoは「全部で(im Ganzen)~」という副詞です。このGallia Narbonensisプロウィンキアには、一個師団しかなかったということですが、随分手薄な気がします。ローマにあれだけの機動力のある兵力があるのであれば、問題ないのかもしれませんが。

pontem, qui erat ad Genavam, iubet rescindi.

pons, pontis (m.)は、もう出てきていましたね。「橋」です。ジュネーヴに向けて架かっている橋です。「ex eo oppido (= Genava) pons ad Helvetios pertinet.」と出てきた、この橋ですね。iubereは「命ずる」です。rescindo, rescidi, rescissum, rescindereは「裂く(abreißen)」ですが(橋を真っ二つに壊して渡れなくするイメージです)、rescindereではなく、rescindiという正体不明の形がきています(どなたか、ご存知の方はご教示いただければ幸いです)。この属州から召集した兵力に命じたということでしょう。誰が命じたかというと、Caesarです。後詰めを防ぐためでしょうか。

ubi de eius adventu Helvetii certiores facti sunt,

ubi節です。「~するや否や(sobald)」くらいの意味です。

certus, certa, certumは「確実な」ですが、この比較級単数対格を用いた熟語がde re aliquem certiorem facere「何々について誰々に確報する」です(人については対格を用いることに注意してください)。ここでは、受身になっていますので、確報を受けたということですね。主語はHelvetiiです。

何についてかというと、de eius (= Caesaris) adventu、つまり、Caesarが到着したことです。

legatos ad eum mittunt nobilissimos civitatis

ad eumはad Caesaremですね。mittereは二重対格をとって、「~を~として送る」という意味になるようです。一つ目の対格は、legatus, legati (m.)「使者」の複数、二つ目の対格は、nobilissimos civitatisで、nobilis, nobilis, nobile(高貴な)の最上級です。civitas, civitatisについてはは、既に詳しく説明しましたね。

これに、二つの関係節が係っています。

(cuius legationis Nammeius et Verucloetius principem locum obtinebant),

わざわざlegatosを先行詞と解する解説書もありますが、その必要はないでしょう。ふつうに直前を先行詞と考えればよいと思います。そうすると、

Nammerius et Verucloetius principem locum legationis nobillisimorum civitatis obtinebant

と考えることになります。使節団の団長はNammeriusとVerucloetiusがつとめたということですね。

qui dicerent sibi esse in animo sine ullo maleficio iter per provinciam facere,

二つ目の関係節ですが、quiは男性複数ですね。dicere(言う)の接続法未完了時制がa.c.i.をとっているように見えますが、よく見ると sibiと与格になっています。なぜかは分かりません(どなたかご教示くだされば幸いです)。

esse in animo+不定詞となっていますが、「~するつもりである」ということです。ullus, ulla, ullumは「何らかの(irgendeiner)」、maleficium, maleficii (n.)は「悪行(Untat)」です。悪さはせずにプロウィンキアを単に通り抜けるだけだと言ったわけです。

propterea quod aliud iter haberent nullum:

この理由節がどこに係っているのかは分かりにくいですが、後をドッペルプンクトで繋いでいるテクストが多いので、後に係っているということでしょう。意味的にも、そのほうがしっくり来ます。

aliud iter nullum(ドイツ語にするとしたら「keinen anderen Weg」)のnullumが変なところに来ていますが、これは、重要な語が文末に来る、という羅文の癖によるものだと思います。結果的に、 haberentが一つ前に来ています。

rogare, ut eius voluntate id sibi facere liceat.

rogare(頼む)ですが、不定形になっているのは、dicerent(言う)に支配されているからでしょう。つまり、esse (in animo)と並列されているわけです。

ut節ですが、licet, licuit, -, licereは非人称動詞で、「~することは許されている(es ist erlaubt)」「~してもよい(man darf)」という意味です(英語でlicenseというのは、これに由来します)。id sibi facereは、文字通りそれをするですが、この節の主語であるHelvetiiの利益のために、ということで、与格の再帰代名詞sibiが入ってきています。

eius (= Caesaris) voluntateですが、voluntas, voluntatis (f.)は、「意思(Wille)」です。奪格ですから、「Caesarの意思で」ということです。要するに、Helvetiiは、「Caesarさんの一存で、あっしらがプロウィンキアを通れるようにしてくれるよう、お願いしますよ」と言ってきたということです。

Caesar, quod memoria tenebat L. Cassium consulem occisum exercitumque eius ab Helvetiis pulsum et sub iugum missum, concedendum non putabat;

「Caesar」と言った後に、理由のquod節が挿入されています。一瞬見たとき、Caesarが中性で受けられているのかと思いましたが、そういう訳ではありませんね。しかし、quod節の主語もCaesarです。

memoria, memoriae (f.)は「記憶」ですが、その奪格を使ってaliquam rem memoria tenereとすると、「~を記憶している、知っている」という意味になります。何を知っていたかということを、主格に直してみると:

  • L. Cassius consul occisus
  • eius exercitus ab Helvetiis pulsus et sub iugum missus

の二つです。

まず一つ目ですが、occido, occidi, occisum, occidereは「打倒する」「殺す」です。敗死させられたコンスルのLucius Cassiusのことを、Caesarは知っていたわけです。CassiusはMariusとともに、紀元前107年のコンスルでした。Caesarは紀元前100年の生まれですから、まだ生まれていません。ですから、aliquid memoria tenereというのは、「覚えていた」というよりは、「知識として記憶していた」ということだと思います。

次に二つ目ですが、pello, pepuli, pulsum, pellereは「撃退する」「屈服させる」で、mitto, misi, missum, mittereは「送る」です。sub iugum mittereは、「軛の下に送る」ということですが、これは少し説明が必要です。軛というのは、車を家畜に曳かせるために家畜の首につける横木ですが、これは「奴隷」という意味合いをもつものであるため、軛の形をした槍の下をくぐらせることが、相手が奴隷になったということを象徴する儀式として行われたようです。要するに、Helvetiiに屈服させられて、この屈辱の儀式を行わされたCassiusの軍隊のことも、Caesarは知っていたわけです。

concendendumはconcedo, concessi, concessum, concedereのゲルンディウム(gerundium)対格です。concedereは「許す」「認める」という意味ですが、現代英語でも concedeと言いますね。puto, putavi, putatum, putareは、「計算する」「考える」です。要するに、Caesarは「これを認めてはならん!」と思ったわけです。

neque homines inimico animo data facultate per provinciam itineris faciendi temperaturos ab iniuria et maleficio existimabat.

nequeは「ne (= non) + que」で、否定が続く場合に使われます。「~もまた~ない」くらいの意味です。homines inimico animoでは、いわゆる性質の奪格(ablativus qualitatis)が使われていますね。inimicus, inimica, inimicumは、「in + amicus」、つまり、「友の反対」ということで、「敵の」ということです。主格にも見えますが、existimo(~を~と見積もる。ここでは未完了時制)は二重対格をとり、そのうちの一つになっていますから、対格です。

data facultate per provinciam itineris faciendiは、分かりにくいですが、独立奪格です。基本構造としては、facultate dataということです。facultateにゲルンディーウゥムつきの属格名詞がついている上に、dataが前置されているので、分かりにくくなっています。

facultas per provinciam itineris faciendiは例のゲルンディーウゥム(gerundivum)の構文で、ゲルンディウム(gerundium)に書き換えると分かりやすくなります。試みに書き換えてみると、

facultas per provinciam iter faciendi

となります。「プロウィンキアを通って行軍する機会(可能性)」ということですね。そして、これが与えられた場合には、ということです。

次に、temperaturos ab iniuria et maleficioですが、existimoの二重対格のもう一つです。temperaturosはtempero, temperavi, temperatum, temperareの能動態未来分詞が、対格になっています。temperareは、「節制する」というような意味ですが、a aliqua re temperareというのは、「あるものから離れている、あるものに近寄らない」ということです。不正と悪行に手を出さないでいるだろう、ということですね。

この文の主語はCaesarですが、彼にとっては、そういう風には思えなかったというわけです。

tamen, ut spatium intercedere posset, dum milites, quos imperaverat, convenirent,

tamenは逆接です。spatium, spatii (n.)は「間にある空間・時間(Zwischenraum, Zeitraum)」、intercedereは「間にある(dazwischenliegen)」です。要するに、時間が稼げるようにということです。

何の間の時間かというと、Caesarが調達を命じておいた兵が集まって来る間の時間ということですね。

legatis respondit diem se ad deliberandum sumpturum;

legatus, legati (m.)は「使者」です。lego, legavi, legatum, legare(委託する)の受動態完了分詞が名詞化したものです。responditは完了時制ですね。

diem se ad deliberandum sumpturumですが、このdiesは、期限となる日ということです。これに能動態未来分詞が係っていますが、sumo, sumpsi, sumptum, sumereは「使う」ですから、要するに、考えるのに必要であろう期限の日を答えたということです。delibero, deliberavi, deliberatum, deliberoは「熟考する、吟味する」ですが、ここではゲルンディウムの対格になっていますね。

si quid vellent, ad Idus Apriles reverterentur.

Caesarの答えた内容であるため、接続法になっているのでしょう。主語はHelvetiiで、時制は未完了です。

現代語でsi vous voulezというのがありますが、si vellentというのは、似たような表現でしょうか(三人称複数形)。quidは前文の内容を受けていると思われます。「それでよければ」という感じだと思います。

Idusですが、田中秀央『羅和辞典』(増訂新版、東京、1966年)692頁によると、「三月,五月,七月,十月ではその第15日目の日をIdusと称し、その他の8ヵ月ではその第13日目の日をIdusと称する」(引用の都合上マクロン記号省略)とあります。ここでは4月ですから、4月13日ですね。 revertor, reversus sum, reversum, revertiは倒錯動詞ですが、「引き返す、回帰する」という意味です。Caesarは、「それでよろしければ4月13日にまた来てください」と言ったわけですね。

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らくらくラテン語入門

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5. 第五段
6. 第六段
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