らくらくラテン語入門
第6回 対格、動詞の活用―現在時制(2)
SALVETE! UT VALETIS? Justusです。
さて、新しい挨拶が出てきました。今日はまず、これを学びましょう。
ヨーロッパでは、「ご機嫌いかが?」という言葉を、挨拶のように使います。
例えば、ドイツ語では
「Guten Tag, Frau Nanigashi. Wie geht es Ihnen?」
(こんにちは、某さん。ご機嫌いかがでしょうか?)
のようにいいます。
しかし、これでは余りに堅苦しいということで、親しい間柄ではどんどん形がくずれていきます。
「Wie geht es Dir?」=>「Wie geht's Dir?」=>「Wie geht's?」=>「Na, wie geht's?」=>「Na?」という経路を辿り、現在では「ナー?」一語で済まされることが結構あります。
私も、はじめて、出会いがしら「ナー?」と言われたときはさすがにビックリしました。
フランス語では、「Comment allez-vous?」「Comme ça va?」「Ça va?」などといい、イタリア語では「Come sta?」「Come stai?」などといいます。そういえば、英語でも「How are you?」といいました。
考えてみると、日本語でも、割と使います。「お元気ですか?」とか、「元気?」とか。私はメールを書くときなどにも結構使います。
そして、ラテン語でも、「ご機嫌いかが?」という挨拶を使います。
ut vales?
ut valetis?
「ut vales」は相手が単数の場合、「ut valetis」は相手が複数の場合に用います。冒頭の挨拶では、複数の方々に向けて発しているので、「ut valetis」となっているわけですね。utは、wie・comment・come・howと同じく、「いかが」という疑問詞です。
vales・valetisですが、この講座の最初で、「さようなら」はvale・valeteであると学びましたね。これと同じもので、valere 「元気である」という動詞です。この動詞の活用を示すと、
valere: valeo - vales - valet - valemus - valetis - valent
となります。そして、vale・valeteというのは、valereの命令形です。つまり、「どうぞお元気で!」ということですね。
さて、そろそろ、今日のメイン・テーマに移りましょう。
前回まで、いろいろと自己紹介の表現を学んできました。名前を尋ねたり、出身地や住所を尋ねたり、職業を尋ねたりという表現をやってきました。
しかし、相手がラテン語を解さないのであれば、ラテン語で訊いてみても意味がありません! そこで、今日は、「あなたはラテン語ができますか?」という表現を勉強しましょう。
scisne linguam Latinam?
日本語では、「あなたはラテン語ができます『か』?」という風に、文末に「か」という終助詞をつけて疑問の気持ちを表しますが、ラテン語では「-ne」という助辞をつけます。そして、この「-ne」は、文末につけるのではなく、文頭の語の語末につけます。
もっとも、疑問詞がついている場合には、それだけで疑問文だと分かりますので(ut vales?等)、「-ne」はつけません。結局、「-ne」をつけるのは、諾否疑問文(はい・いいえで答えられる疑問文)のみとなります。
scisne linguam Latinam?の場合、冒頭のscisという語の末尾に-neがついているため、scisneというかたちになっています(なお、sc- は、現代イタリア語と異なり、後にどの母音が来ても[sk]という音になりますので、ご注意ください)。scisの不定形はscireで、「(よく)知っている(wissen、kennen)、理解する(verstehen)、できる(können)」と割と幅の広い意味を持っています。活用は、次の通りです:
scire: scio - scis - scit - scimus - scitis - sciunt
ちなみに、scireから派生した語に、scientiaがあります。これは、「知っていること」という意味の名詞です。英語のscienceでお馴染みですね。
そして、linguam Latinamというのは、lingua Latina(ラテン語)という名詞の対格(accusativus)です。
対格については、前置詞の補語となる場合があるということで前回も少し出てきました。しかし、最も重要な使い方は、ここに出てきている、「動詞の目的語」となるという使い方です。他にもいろいろな使い方がありますが、それについてはそのうちにご説明することになろうかと思います。
それでは、ちょっと使ってみましょう。「私はラテン語ができます」ならlinguam Latinam scio、「私たちはラテン語ができます」ならlinguam Latinam scimus、「あなたがたはラテン語ができますか?」ならscitisne linguam Latinam?ですね。
ところで、同じようなことは、「あなたはラテン語でお話になりますか?」という風に訊くこともできます。これをラテン語では、次のようにいいます:
loquerisne lingua Latina?
loquerisの不定形はloquiとなります。いままでやってきた動詞(habitare, valere, venire, scire)と、何となく形が違うなあ、とお気づきになったのではないでしょうか? その通りです。実は、活用も、いままでのものとは、かなり異なります:
loqui: loquor - loqueris - loquitur - loquimur - loquimini - loquuntur
ここでは、lingua Latinaという奪格を使っていますが(したがって、二つの単語の語尾のaは長音です)、奪格は、「~で」という手段を表す意味になるということを、ぜひ覚えて置いてください。これは、かなり頻繁に出てくる奪格の使い方です。
「私はラテン語で話します」ならlingua Latina loquor、「私たちはラテン語で話します」ならlingua Latina loquimur、「あなたがたはラテン語でお話になりますか」ならloquiminine lingua Latina?ですね。
第6回 練習問題:ロールプレイ
「あなたはラテン語でお話になりますか?」と訊きますので、「私はラテン語で話します。」と答えてみてください。
loquerisne lingua Latina?
・・(あなたの番です)・・
どうでしたか? うまく言えましたか?
第6回 まとめ
- 名詞
- 対格(accusativus):動作の対象(目的語)を表す格
- 奪格(ablativus):動作の手段を表す格
- 動詞
- valere: valeo - vales - valet - valemus - valetis - valent
- scio: scio - scis - scit - scimus - scitis - sciunt
- loqui: loquor - loqueris - loquimur - loquimini - loquuntur
動詞の活用がいろいろと出てきています。「ラテン語の動詞の活用はとても規則的だ」と聞いたことがあるかもしれません。実は、その通りで、今きちんと覚えておくと、あとでとても楽になるんです。
VALETE!