「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくラテン語入門

第11回 形容詞のOA型格変化

SALVETE! UT VALETIS? Justusです。

前回は、名詞の格変化にはパターンがあるというお話をしました。ちょっとおさらいしておきましょう:

名詞の語尾変化:主格-属格-与格-対格-奪格

  1. us - i - o - um - o:だいたい男性:O型
  2. a - ae - ae - am - a:だいたい女性:A型
  3. um - i - o - um - o:つねに中性:O型

例えば:

  1. Justus - Justi - Justo - Justum - Justo(ゆすとぅす)
  2. Iaponia - Iaponiae - Iaponiae - Iaponiam - Iaponia(日本)
  3. Iaponium - Iaponii - Iaponio - Iaponium - Iaponio (ジャポニウム(日本で発見された元素の候補名))

こういうパターンがあるというのは、とてもありがたいことです。だって、考えてみてください。もし、パターンがなかったら、100個の名詞について、100個の格変化を覚えなければならないのですから。それが、名詞が100個だろうと、1000個だろうと、1つのパターンさえ覚えてしまえば、いつでも対応できるのです。素晴らしいと思いませんか?

「文法」というのは、言葉の法則ですが、こういう風に、本来はとてもありがたいものなんですよね。ところが、最近では、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」の論理で、学校語学教育の批判の第一の槍玉として、文法が悪者扱いされたりしています。でも、前にコラムで書きましたが、本当の悪者は「訳読」であって、文法ではないんですよね。

何だか話が逸れましたが、要するに、名詞の格変化には、次のパターンがあるということです:

  1. us - i - o - um - o:だいたい男性:O型
  2. a - ae - ae - am - a:だいたい女性:A型
  3. um - i - o - um - o:つねに中性:O型

これは、超重要なので、絶対に記憶しましょう!

「あとで」なんて言ってはいけません(笑)。今、覚えてしまいましょう。

何回か口で唱えたり、手で書いてみたり、何度も読み返してみたりして、記憶してみてください。

・・・

・・・

・・・

覚えましたか?

それでは、ちょっと確認テストをしましょう。空欄に当てはまるのは何でしょうか:

  1. us - ( ) - ( ) - um - ( ):だいたい( )性:O型
  2. a - ( ) - ae - ( ) - ( ):だいたい( )性:A型
  3. um - ( ) - ( ) - ( ) - o:つねに( )性:O型

・・・

どうでしたか?

全問正解だった方は、自分の努力を褒めたたえてあげましょう。

間違えてしまった方も、間違ったところをきちんと復習すれば、しっかりと確実に覚えることができます。間違った部分は、かえって印象に残りますので、あとあとまでよく覚えているものです。

なぜ、このパターンを記憶することが大事かというと、実は、形容詞もまったく同じパターンで格変化するからです。

というわけで、今日は形容詞もマスターしてしまいましょう。

例えば、「私の」という形容詞は、次のような格変化をします:

  1. meus - mei - meo - meum - meo:「つねに」男性
  2. mea - meae - meae - meam - mea:「つねに」女性
  3. meum - mei - meo - meum - meo:つねに中性

1と2は、名詞では少数の例外があるので「だいたい」という言い方をしましたが、形容詞では例外がありません。とても簡単ですね。

辞書などでは、「meus, mea, meum」という風に書いてありますが、これは、主格を男性・女性・中性の順番で3つ書き並べたものです。スペース節約のために「meus, a, um」と書いてあることもあります。

それでは、さっそく、形容詞を使ってみましょう。 自分の体を指して、言ってみましょう:

  • oculus meus(私の目):男性
  • lingua mea(私の舌):女性
  • tergum meum(私の背中):中性

英語以外のヨーロッパ言語をやったことがある方にはお馴染みですが、ラテン語では、このように、名詞に性があります。ここでは、oculus(目)は男性、lingua(舌)は女性、tergum(背中)は中性という風になっています。そして、形容詞は、名詞に合わせて性を変えるのです。

形容詞を学ぶと、表現力が高まり、文がつくりやすくなります。

まずは、主格を使って文をつくってみましょう。 magnus, magna, magnumは「大きい」です。そういえば、「マグナ・カルタ」は「大憲章」と訳されますね。

  • oculus meus magnus est. (私の目は大きい)
  • lingua mea magna est. (私の舌は大きい)
  • tergum meum magnum est. (私の背中は大きい)

一度、声に出して読んでみて下さい。語尾が揃っていて、とても美しい響きになると思います。ラテン語は、いつの間にか韻を踏んでしまっている、そんなオシャレな言語です。

大きくない場合は、次のようにいえます:

  • oculus meus non magnus est. (私の目は大きくない)
  • lingua mea non magna est. (私の舌は大きくない)
  • tergum meum non magnum est. (私の背中は大きくない)

「non(~でない)」を付け加えるだけで、簡単にできます。

では、属格ではどうなるでしょうか? 属格とは、おもに「~の」という意味を示す格でしたね。

  • oculus meusの属格形であるoculi meiは、「私の目の」
  • lingua meaの属格形であるlinguae meaeは、「私の舌の」
  • tergum meumの属格形であるtergi meiは、「私の背中の」

という意味です。これは例えば、

  • dolor oculi mei(私の目の痛み)
  • dolor linguae meae(私の舌の痛み)
  • dolor tergi mei(私の背中の痛み)

というように使えます。

次に与格です。与格は、例えば、「~に~を与える」という場合の、「~に」にあたるものを表す格です。英語の間接目的語のようなものです。

例えば、「~から痛みを取り去る」という場合には、「与格+dolorem eripere」といいます。doloremはdolorの対格ですが、今までやってきた格変化とは若干異なる変化です(でも、似ていますね)。 eripereは「取り去る」です。

それで、

  • oculus meusの与格形は、oculo meo
  • lingua meaの与格形はlinguae meae
  • tergum meumの与格形はtergo meo

ですから、

  • medicus oculo meo dolorem eripit.(お医者さんは私の目から痛みを取り除いてくれる)
  • medicus linguae meae dolorem eripit. (お医者さんは私の舌から痛みを取り除いてくれる)
  • medicus tergo meo dolorem eripit.(お医者さんは私の背中から痛みを取り除いてくれる)

というような例文をつくることができます。

今度は、対格です。

「対」格は、「対」象を示す格でしたね。「~を」ということです。フランス語や英語の直接目的語のようなものです。

  • oculus meusの対格形は、oculum meum
  • lingua meaの対格形はlinguam meam
  • tergum meumの対格形はtergum meum

です。みな「-m」で終わっているので、分かりやすいですね。examinare(検査する)で例文をつくってみると、

  • medica oculum meum examinat.(お医者さんは、私の目を診る)
  • medica linguam meam examinat. (お医者さんは、私の舌を診る)
  • medica tergum meum examinat. (お医者さんは、私の背中を診る)

という感じになります。

ちなみに、medicusは男性のお医者さん、medicaは女性のお医者さんです。ドイツ語のMedizinやMedikament、フランス語のmédecin、英語のmedicineなんかが名残をとどめていますね。Medicusという名字の人もいますが、ご先祖はお医者さんだったのでしょう。

最後は奪格です。

奪格は前置詞とともに使われることが多いです。奪格をとる前置詞には、例えば、次のようなものがあります:

  • a (ab):~から(場所)、~以来(時間)、~から(抽象)
  • cum:~とともに(場所)、~で(抽象)
  • de:~から(場所)、~からずっと(時間)、~について(抽象)
  • e (ex):~から外へ(場所)、~以来(時間)、~によると(抽象)
  • prae:~の前に(場所)、~のために(抽象)
  • pro:~の前に(場所)、~の代りに(抽象)
  • sine:~なしで(抽象)

(他にも、「対格・奪格支配の前置詞」というものがありますが、それはいずれまたの機会にお話しします。)

例えば、中級編でやっている『ガリア戦記』は、ラテン語で

Commentarii de bello Gallico(ガリア戦争についての回顧録)
ないし、単に
De bello Gallico(ガリア戦争について)

と呼ばれることが多いですが、これは、de(~について)という前置詞に率いられているために、

bellum Gallicum(ガリアの戦争:bellum(戦争)が中性名詞、Gallicus, Gallica, Gallicum(ガリアの)が形容詞です)

が、奪格の

bello Gallico

という形になっているのです。

他にも、Deで始まる本の名前はたくさんあります。

例えば、以前コラムでご紹介した、キケロー(Cicero)の『公共体について』であれば:

De re publica

です。

reというのは、まだやっていない格変化のパターン(E型)なのですが、res(もの、こと)という女性名詞の奪格です。

publicus, publica, publicumは、「公の」という形容詞です。女性名詞についていて、しかも奪格になっているので(※ここは重要です)、publicaとなっているのです。

奪格になっているということは、ここのpublicaの語末のaは長音だ、ということです。このパターンでは、主格では短音、奪格では長音になるのです。

以前、名詞の格変化をやったときに、「日本から」という場合にはIaponiaの語末を長音にする、というお話をしましたが、形容詞でも同じです。

さて、奪格の格変化には少しずつ慣れてきたでしょうか?

ここで、もう少し応用をやります。

magno cum studio
「たいそう熱心に」

という表現があります。これは、

magnum studium
「大きな熱意」

にcum(~をもって)がついたものなのですが、こういう場合、しばしばcumがこういう風に中に割り込んできます。

意味上の結びつきが強い場合にこういう語順になる、という話も読んだことがありますが、それだけでは割り切れない場合も結構あります。

ところで、この場合、cumを省略して、

magno studio
「たいそう熱心に」

とすることもできます。ablativus modiと呼ばれるもので(「方法の奪格」、「様態の奪格」、いずれに訳してもよいと思います)、きわめてよく出てくるのですが、分かりにくい場合には、 cumを補うとよいと思います。

ついでなのでやってしまいますが、summus, summa, summumという「最高の」という形容詞もあります。そこで、「これ以上ないくらい熱心に」という場合には、

summo studio

といいます。

そこで、私から皆さんに贈る言葉です:

summo studio linguam Latinam discitis!
「皆さんはこれ以上ないくらいの熱意をもってラテン語を勉強されています!」

皆さんが自分たちのことをおっしゃるなら:

  • summo studio linguam Latinam disco.
    「私はこれ以上ないくらいの熱意をもってラテン語を勉強しています」
  • summo studio linguam Latinam discimus.
    「私たちはこれ以上ないくらいの熱意をもってラテン語を勉強しています」

となります。

ちなみに、ヨーロッパでは、論文の評価にラテン語を使います:

  • summa cum laude:「最高に褒め讃えます」ということ。ごく稀に出る評価。日本には相当するものはない。
  • magna cum laude:「大いに褒め讃えます」ということ。日本の「優」くらいに相当。
  • cum laude:「褒め讃えます」ということ。日本の「良上」くらいに相当。
  • satis bene:「よくみたしています」ということ。日本の「良」くらいに相当。
  • rite:「合格」ということ。日本の「可」くらいに相当。

summa cum laudeとmagna cum laudeが、何でこういう語順になっているのか、もうお分かりですね。laudeというのは、これもまだやっていない種類の格変化ですが、laus(称讃)という女性名詞の奪格です。

さて、これでOA型の形容詞は完了です。また、今日は、いろいろとまだやっていない文法事項も垣間見ることができたと思います。何でもそうですが、一度でもチラッと見ていると、今度、本格的にその文法事項をやるときに、入りやすくなると思います。

第11回 練習問題:穴埋め問題

meus, mea, meumを格変化させて、空欄に入れてみてください。

  1. oculus ( ) magnus est.
  2. lingua ( ) magna est.
  3. tergum ( ) magnum est.
  4. dolor oculi ( )
  5. dolor linguae ( )
  6. dolor tergi ( )
  7. medicus oculo ( ) dolorem eripit.
  8. medicus linguae ( ) dolorem eripit.
  9. medicus tergo ( ) dolorem eripit.
  10. medica oculum ( ) examinat.
  11. medica linguam ( ) examinat.
  12. medica tergum ( ) examinat.

・・・

どうでしたか?

答えは、次の通りです:

  1. meus
  2. mea
  3. meum
  4. mei
  5. meae
  6. mei
  7. meo
  8. meae
  9. meo
  10. meum
  11. meam
  12. meum

いかがでしたか?

全問正解目指して、何回も解いてみてくださいね。

それではまた次回! VALETE!

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らくらくラテン語入門

1. 挨拶(1)、名前の訊き方
2. 発音
3. 自己紹介
4. 名詞の格―主格、奪格(1)
5. 奪格(2)、動詞の活用―現在時制(1)
6. 対格、動詞の活用―現在時制(2)
7. 奪格(3)
8. 与格
9. 属格
10. 格の用法(まとめ)と名詞のOA型格変化
11. 形容詞のOA型格変化
12. 動詞の活用―現在時制(まとめ)
13. 挨拶(2)
14. 名詞のI型・子音型格変化
15. 名詞のE型格変化
16. 名詞のO型格変化の変種
17. 名詞のU型格変化
18. 呼格
19. 格変化のパターン・性・格の見分け方
20. 複数の格変化(1)
20. 複数の格変化(2)

らくらくガリア戦記

0. 序論
1. 第一段
2. 第二段
3. 第三段
4. 第四段
5. 第五段
6. 第六段
7. 第七段
8. 第八段
9. 第九段
10. 第十段

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