「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくラテン語入門

第3回 自己紹介

発音に関してはもうバッチリですね!

さて、第1回で、

mihi/tibi/vobis ... est/sunt

という表現が出てきました。これは、「私/あなた/あなたがたは持っている」という意味でした。mihi/tibi/vobisは与格(dativus)という格なので、「所有の与格(dativus possessivus)」といったりします。

このest/suntですが、このほか、いわゆるコプラ(copula)の働きもします。コプラというのは、それ自体にはあまり意味がない「繋ぎことば」のことです。イタリア語の essere、スペイン語のser、フランス語のêtre、ドイツ語のsein、オランダ語のzijn、英語のbeがそれです。

(仏)Je suis japonais(e).
(独)Ich bin Japaner(in).
(英)I am Japanese.

という場合、suis/bin/am自体には意味がなく、前と後を繋げているだけです。これがコプラです。

ちなみに、japonais(e)・ Japaner(in)と書きましたが、これは、男性の場合japonais・Japaner、女性の場合japonaise・Japanerinということです。英語だけ知っている方は奇妙に思うかもしれませんが、ヨーロッパの言語は、どっちかというと性があるほうが通常で、性のない英語のほうが変わり者なんです。

ラテン語も性があります。同じことをラテン語で言うと、

男性:Iaponicus sum.
女性:Iaponica sum.

となります。ego(私)をつけて、

ego Iaponicus sum. / ego Iaponica sum.

としてもいいですが、文脈がないとちょっと変です。ない方が自然です。

同じことを、イタリア語やスペイン語では

Sono giapponese.
Soy japonés. / Soy japonesa.

といいますが、これと同じ原理です。要するに、動詞の活用形を見れば行為者は分かるので、いちいち誰が行為者かを言う必要はない、ということです。高校で古文を勉強したときに、敬語から動作の主体と客体をアイデンティファイする訓練をしましたが、似たようなものです。

ところで、これらの動詞の活用は互いに似ています。すべて、ラテン語の影響下に発展してきた言語ですから、ある意味当然です。

(羅)esse: sum - es - est - sumus - estis - sunt
(伊)essere: sono - sei - è - siamo - siete - sono
(西)ser: soy - eres - es - somos - sois - son
(仏)être: suis - es - est - sommes - êtes - sont
(独)sein: bin - bist - ist - sind - seid - sind
(蘭)zijn: ben - bent - is - zijn - zijn - zijn
(英)be: am - are - is - are - are - are

どうですか? 似ているでしょう? え、似てない? そんなことないんです。似てるんです。中国語にもコプラがありますから、ちょっと較べてみてください。

(中)shì: shì - shì - shì - shì - shì - shì

どうでしょうか? ヨーロッパ言語のコプラがいかに似ていたか、納得いかれたと思います。 ラテン語の活用をやっておくと、後で他のヨーロッパ言語に手を出すときに、楽になります。

ちなみに中国語のコプラですが、漢字で書くと「是」です。「我是日本人。」で、「我」(わたし)イコール「日本人」です。

それでは、前置きはこれくらいにして、ラテン語だけ取り出して覚えましょう。

esse: sum - es - est - sumus - estis - sunt

ちょっと口で唱えてみてください。覚えるには、口で唱えることです。

ではもう一度。

esse: sum - es - est - sumus - estis - sunt

どうですか? 覚えましたか?

ちょっと使ってみましょう。

Iaponicus sum. / Iaponica sum.
Germanus es. / Germana es.
Francogallus est. / Francogalla est.
Americani sumus. / Americanae sumus.
Helvetii estis. / Helvetiae estis.
Poloni sunt. / Polonae sunt.

どこの国の人か分かりましたか? 順に、日本人、ドイツ人、フランス人、アメリカ人、スイス人、ポーランド人です。

職業もいえます。自分の職業を探して、ラテン語で言ってみましょう。

aegrorum minister sum. / aegrorum ministra sum. 私は看護師です。
aeronauta sum. / aeronautis sum. 私はパイロットです。
agricola sum. / femina rustica sum. 私は農業を営んでいます。
artifex sum. 私はアーティストです(男女共通)。
artifex informationis sum. 私はコンピュータ・プログラマーです(男女共通)。
astronauta sum. / astronautis sum. 私は宇宙飛行士です。
auctor sum. 私は作家です(男女共通)。
diurnarius sum. / diurnaria sum. 私はジャーナリストです。
discipulus sum. / discipula sum. 私は学生(高校以下)です。
domisedus sum. / domiseda sum. 私は主夫/主婦です。
faber sum. / fabrix sum. 私は大工です。
functionarius sum. / functionaria sum. 私は会社員です。
ingeniarius sum. / femina ingeniaria sum. 私はエンジニアです。
magister sum. / magistra sum. 私は教師です。
medicus sum. / medica sum. 私は医者です。
mercator sum. / mercatrix sum. 私はビジネスマンです。
musicus sum. / artifex musica sum. 私は音楽家です。
nauta sum. / nautis sum. 私は航海士です。
officialis sum. 私は公務員です(男女共通)。
operarius sum. / operaria sum. 私は肉体を使う仕事をしています。
photographus sum. / femina photographica sum. 私は写真家です。
pictor sum. / pictrix sum. 私は画家です。
pistor sum. / femina pistoria sum. 私はパン屋です。
professor sum. / profestrix sum. 私は大学教授です。
secretarius sum. / secretaria sum. 私は秘書です。
studiosus academicus sum. / studiosa academica sum. 私は学生(大学以上)です。
taxiraedarius sum. / taxiraedaria sum. 私はタクシー運転手です。
tonsor sum. / tonstrix sum. 私は美容師です。

こういう表現を勉強すると、「あなたの職業は何ですか?」と訊きたくなると思いますが、

quam professionem habes?

か、

quid facis ex professo?

で訊けます。quam professionemは「何の職業を」、habesは「あなたは持つ」、quidは「何を」、facisは「あなたはする」、ex professoは「職業として」ということです。

さて、いまさっき、

Iaponicus sum. / Iaponica sum.
「私は日本人です」

という表現をやりましたが、同じことは、

ex Iaponia venio.
「私は日本出身です」

ともいえます。exは「~から(aus)」、venioは「私は来る(ich komme)」です。つまり、ドイツ語のich komme aus Japan.と同じです。現在時制であることに注意。

もっとも、外国で生まれ育った日本国籍の方々ように、必ずしも日本人だからといって日本出身とは限らないわけです。その逆もありますし、他の国籍の場合も同じです。したがって、この二つの表現の区別は重要だと思われます。例えば、

Iulia Germana est, sed ex Iaponia venit.
「ユーリアはドイツ人だけど、日本出身なんだよ」

という表現も可能でしょう。venioは三人称単数形だとvenitになります。sedは逆接の接続詞です。英語のbutに相当し、

Iulia non Iaponica, sed Germana est.
「ユーリアは日本人ではなくドイツ人だ(Julia is not a Japanese, but a German.)」

という感じで、non ... sed ... という使い方もできます。

第3回練習問題:ロールプレイ

私の質問に答えてください:

quam professionem habes?

・・(あなたの番です)・・

うまく答えられましたか?

第3回のまとめ

  • esse: sum - es - est - sumus - estis - sunt.
  • Iaponicus/a sum. (国籍)
  • ... sum. (職業)
    • quam professionem habes? 「あなたのご職業は何ですか?」
    • quid facis ex professo? 「あなたのご職業は何ですか?」
  • ex ... venio. 「私は~出身である」
  • non ... sed ... 「~ではなく~」
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1. 挨拶(1)、名前の訊き方
2. 発音
3. 自己紹介
4. 名詞の格―主格、奪格(1)
5. 奪格(2)、動詞の活用―現在時制(1)
6. 対格、動詞の活用―現在時制(2)
7. 奪格(3)
8. 与格
9. 属格
10. 格の用法(まとめ)と名詞のOA型格変化
11. 形容詞のOA型格変化
12. 動詞の活用―現在時制(まとめ)
13. 挨拶(2)
14. 名詞のI型・子音型格変化
15. 名詞のE型格変化
16. 名詞のO型格変化の変種
17. 名詞のU型格変化
18. 呼格
19. 格変化のパターン・性・格の見分け方
20. 複数の格変化(1)
20. 複数の格変化(2)

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0. 序論
1. 第一段
2. 第二段
3. 第三段
4. 第四段
5. 第五段
6. 第六段
7. 第七段
8. 第八段
9. 第九段
10. 第十段

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