らくらくラテン語入門
第21回 複数の格変化(2)
SALVETE!
Justusです。
前回から、複数の格変化をやっていますが、覚えていますか?
忘れてしまった、という方も多いかと思います。
でも、忘れたときが、復習のチャンス、つまり、理解力を深め、記憶を強くするチャンスです!
復習というのは、たいへん効率的な作業です。もし完全に忘れてしまっていても、すでに一度学んでいますので、学ぶ時間が大幅に短縮されます。しかも、記憶が熟成されていますので、定着度は最初に学ぶよりも格段に良くなります。
新しい発見をして、以前見えなかったことが、突如として見えてくることもあります。
http://www.rakuraku-latin.net/i0020.php
いかがでしたか?
孔子の「学びて時に之を習ふ。亦たよろこばしからずや。」という気持ちが味わえましたか?
それでは、続きをやりましょう。
残っているのは、主格・呼格・対格の三つの格の複数形でしたね。
このうち今日は、主格と呼格を片付けましょう。主格と呼格はつねに同じ形になりますので、まとめて片付けることができます。
まず、中性は特徴的な変化をしますので、これを見ていきましょう:
- O型・子音型:-a
- I型:-ia
- U型:-ua
これだけです。簡単ですね。
なお、A型・E型については、このパターンで変化する中性名詞自体がありませんので、当然複数形もありません。
それでは、いくつか例を挙げてみます。いずれも重要単語ですので、単語ともども覚えてしまいましょう。
まずはO型です(最初に掲げるのは単数主格と単数属格です):
- templum, templi(一つの神殿)→templa(複数の神殿)
- oppidum, oppidi(一つの城塞都市)→oppida(複数の城塞都市)
- officium, officii(一つの義務)→officia(複数の義務)
いずれも、ローマを感じさせる言葉です。ローマの都市というのは、ふつう外敵からの攻撃に備えて城壁をめぐらしています。これをoppidumと呼んでいます(近未来系のアニメなどでは、都市にバリアがめぐらしてあるのをよく見かけますが、似たようなものかもしれません)。
そもそも、「城」という文字のもともとの意味は、長安や洛陽のように、城壁に囲まれた街ということです。これはローマのoppidumとまったくパラレルです。
そういう意味では、「城」と訳すのがもっとも適切なのですが、日本では「城」というと、姫路城やノイシュヴァンシュタイン城のような城がイメージされる傾向が強いですので、「城塞都市」とか、「城市」とか訳すことにしています。
そして、城塞都市の中心には、神殿があります。ローマの市民というのは、強烈な愛国心に裏打ちされた義務感に燃えている人々で、城塞都市を防衛するために軍役を果たします。そして、軍役のある人々が、政治に関与する資格を持つ、というふうになっていました。
次に子音型です:
- corpus, corporis(一つの体)→corpora(複数の体)
- ius, iuris(一つの権利・法)→iura(複数の権利・法)
- opus, operis(一つの仕事・作品)→opera(複数の仕事・作品)
英語圏の法人の一種にコーポレーション(corporation)というのがありますが、このcorpusからきている言葉だということは見て分かりますね。
ローマの法学というのは、きわめて有名です。現在の欧州文化は、ギリシャ哲学・ローマ法学・キリスト教の三つを基盤として形成されているといわれたりもします。
ドイツ語では、法学を勉強していることを現在でも「Ich studiere Jura」といったりしますが、これはiusの複数形です。複数になっているのは、中世にローマ法(市民法)とカノン法(教会法)の両方を勉強していたころの名残といわれています。当時は北イタリアが法学の先進地で、ヨーロッパ中からボローニャ大学などに留学生が来ていました。
ちなみに、英語やフランス語のjurisprudenceにもiusの属格形が含まれていますね。実は、これは、ラテン語の「iuris prudentia」から来ています。
オペラ(opera)という語が、このopusの複数形から来ていることは、一目瞭然ですね。
ラテン語を勉強していると、現代語を学ぶにもすこぶる役に立ちます。
次にI型です:
- animal, animalis(一匹の動物)→animalia(複数の動物)
- exemplar, exemplaris(一つの模範)→exemplaria(複数の模範)
いずれも、現代語でもよく使う言葉ですね。
最後にU型です:
- cornu, cornus(一つの角)→cornua(複数の角)
- genu, genus(一つの膝)→genua(複数の膝)
U型中性の格変化は、多分初めて目にされたのではないでしょうか。ここでちょっと単数の格変化をやってしまいましょう:
U型中性:-u, -us, -ui, -u, -u
男性・女性については、覚えていますか?
次のようになっていましたね:
U型男性・女性:-us, -us, -ui, -um, -u
なお、複数属格・複数与格・複数奪格については、性にかかわらず共通です。これについては、前回やりましたね。
ちなみに、cornuとgenuは、いずれも、現代の英語でも使う言葉です。一般に、古い言語は中心地域よりも周縁地域でよく保存される傾向があるといわれます。英語でもラテン語がかなりそのままの形で残っていて、ちょっと高級な文章を読むと、随所でラテン語の単語がそのまま使用されているのを見かけます。
以上で、中性複数の主格・呼格の格変化はおわりです。
いかがでしたか? 比較的易しかったのではないでしょうか?
ここで重大発表があります。
実は、中性については、対格は主格とまったく同じ形になるのです!
したがって、中性名詞に関しては、すべての格変化がおわったことになります。
あっけなかったですね。
複数は単数に較べて簡単だ、と以前申し上げましたが、多分そう実感していただけているのではないかと思います。
それでは、引き続き男性・女性の複数主格・呼格をやりましょう。
ここでも、主格と呼格は同じ形になります。
- A型:-ae
- O型:-i
- I型・子音型:-es
- U型:-us
- E型:-es
二重母音の-aeを除き、すべて長音です。
何か気づくことはありませんか?
そうです。A型・O型・U型では、単数属格とまったく同じ形になっていますね。
そして、E型では、単数主格と同じ形になっています。
そうだとすると、次のようにまとめ直すことができます:
- E型:単数主格形と同じ。
- A型・O型・U型:単数属格形と同じ。
- I型・子音型:-es(長音)
結局、新たに覚えなければならない形は、「-es」だけだということになります。
楽勝ですね!
長くなってきましたので、今日はこの辺でおひらきにして、次回は、男女複数主格・呼格形の例をあげるところから始めたいと思います。
その次に、男女複数対格をやって、格変化はめでたくすべて終了!ということになります。ワクワクしてきますね。
ではお楽しみに!
VALETE!