「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくラテン語入門

第8回 与格

SALVETE! UT VALETIS? Justusです。

前回は、奪格という格をやや詳しく学びましたが、今日は、そのついでに、新しい格を学んでしまいましょう。

「与格」(casus dativus)という格です。

ドイツ語ではお馴染みの格(Dativ)ですが、初めて接する方も多いでしょう。今日はこれについて説明します。といっても、別に難しくありません。この格は、日本語の「~に」という格助詞にほぼ相当するからです。

「~に」という風に訳せば、だいたいの場合はOKです。

なぜこの格を「与格」というかは、簡単です。

「与える」ことを表現する文で使われるからです。「与える」はラテン語でdareといい、

do - das - dat - damus - datis - dant

と活用します。

例えば、

Justus Iuliae librum dat.

なら、「JustusはIuliaに本を与える」ということです。

この文を分析すると、次のようになります:

  • JustusはJustusの主格:「Justusは」
  • IuliaeはIuliaの与格:「Iuliaに」
  • librumはliber(本)の対格:「本を」

つまり、

(主格)(与格)(対格)(動詞)

という構造になっています。

主格はどの動詞でもとることができますが、与格と対格は必ず取れるわけではありません。

これらが取れるかどうかは、動詞によります。

例えば、「valeo(私は元気だ)」という場合には、valereという動詞は与格も対格も必要としません。

これに対して、「linguam Latinam scio(私はラテン語が分かる)」という文では、scireという動詞は対格を必要としています。しかし、与格は必要としていません。

更に、「Justus Iuliae librum dat」という文では、dareという動詞は、与格と対格の両方を必要としています。

この区別は、英語の

  • SV:直接目的語も間接目的語も不要な動詞(go等)
  • SVO:直接目的語を必要とするが、間接目的語は不要な動詞(have等)
  • SVOO:間接目的語と直接目的語の両方を必要とする動詞(give等)

の三者の区別にだいたい相当すると考えてよいでしょう。

もちろん、ラテン語では、英語のように語順にうるさくないので、「文型」という言い方は語弊があるかもしれません。気になる方は、「文型」という言い方は忘れて、動詞の機能を知るための補助手段だと考えてください。

もっとも、厳密に言うと、ラテン語では、SVOOに相当する文型は、三つくらいあります:

  • 与格と対格をとる動詞:dareその他の動詞です。
  • 対格を二つとる動詞:二重対格と呼ばれるものです。いずれやります。
  • 対格と奪格をとる動詞:これは、先週やりましたね。nudareなどです。

ところで、与格は、人称代名詞で使うことが多いです。

情報としては「~を」という部分が重要であることが多いので、「~に」という部分は代名詞で簡単に済まされてしまうことが多いからです。

give meなんたらとか、donnez moiなんたらとか、よく使いますね。

ラテン語の人称代名詞の与格は、次の通りです:

  • 一人称単数:mihi「私に」
  • 二人称単数:tibi「あなたに」
  • 三人称単数:ei「彼・彼女・それに」
  • 一人称複数:nobis「私たちに」
  • 二人称複数:vobis「あなたがたに」
  • 三人称複数:iis (eis)「彼ら・彼女ら・それらに」

ドイツには、VOBISという名前のパソコンショップがありますが、「あなたがたに」ということですね。

形としては、単数は-i、複数は-isで終わっていて、覚えやすいですね。

複数で-sがつくわけです。現代でも、フランス語では、動詞でも名詞でも、複数になるとやたらに-s (-x, -z)で終わる傾向がありますが、ラテン語でも結構「-sで終わると複数」という場合が多いです。

それでは、次の例文の意味を考えてください:

  • mihi librum das.
  • tibi librum do.
  • ei librum dant.
  • nobis libros datis.
  • vobis libros damus.
  • iis libros dat.

どうでしたか?

「librosという、見たことのない単語が出てきた」と思われたかもしれません。

ここで、「-sで終わっているから、ひょっとして複数じゃないかな」と気づいた方は、ご名答。これは、liberの複数対格です。

  • あなたは私に本をくれる。
  • 私はあなたに本をあげる。
  • 彼(女)らは彼(女)に本をあげる。
  • あなたがたは私たちに本をくれる。
  • わたしたちはあなたがたに本をあげる。
  • 彼(女)は彼(女)らに本をあげる。

ところで、このmihi・tibi・vobisという語、どこかで見た記憶はありませんか?

そうです。

quod nomen tibi est?
mihi nomen Justus est.

のmihi・tibiです(忘れてしまった方は、こちら)。

そして、

quod nomen tibi est?

を複数にすると、

quae nomina vobis sunt?

になるのでしたね。このvobisです。

mihi ... est/sunt.

という表現も思い出しましたか?

「私は~を持っている」という意味でしたね。

これを一般化すると、

(与格)(主格)est/sunt.

で「誰々は何々をもっている」ということを表現できます。例えば、

  • hic liber mihi est.
  • hic liber tibi est.
  • hic liber ei est.
  • hic liber nobis est.
  • hic liber vobis est.
  • hic liber iis est.

なら、それぞれ、

「私/あなた/彼/私たち/あなたたち/彼らはこの本を持っている」

ないし、

「この本は私/あなた/彼/私たち/あなたたち/彼らのだ」

です。hicは、「この」という指示形容詞です。フランス語をご存知の方は、

  • Ce livre est à moi.
  • Ce livre est à toi.
  • Ce livre est à lui/elle.
  • Ce livre est à nous.
  • Ce livre est à vous.
  • Ce livre est à eux/elles.

と同じようなものだと思うとよいと思います。

実際、ドイツでフランス語を習うと、「à ...」というのは与格(Dativ)に相当すると説明を受けます。例えば、

Elle a donné le livre à son ami.

は、

Das Buch hat sie ihrem Freund gegeben.

に相当するというわけです。

第8回 まとめ

  • 与格(dativus)
    • 「~に」:dare(与える)などの動詞の補語(の一つ)になる。
    • 所有の与格:(主格)(与格)est/sunt.
  • dare: do - das - dat - damus - datis - dant
  • 人称代名詞の与格:mihi - tibi - ei - nobis - vobis - iis (eis)

それではまた来週。 VALETE!

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