らくらくラテン語入門
第4回 名詞の格―主格、奪格(1)
前回学んだ「ex Iaponia venio」という表現ですが、ちょっと、発音で気をつける点があります。 普通に「日本」という場合には、Iaponiaの最後のaは短く読みます。例えば:
Iaponia patria mea est.
「日本は私の祖国です」
という場合には、最後のaは短く読みます。
これに対して、
ex Iaponia venio.
という場合には、最後のaは少し長く読みます(de Iaponia venioでも同じです)。片仮名で表記される場合、よく「ヤポーニアー」などと表記されますが、これは余りに長すぎて変です。しかし、日本語にはそれ以外に長音であるということを示す方法がないので、仕方なくそういう風に書いているわけです。以前、片仮名で表記するのはよくないことだと言いましたが、それは、こういう場合にも当て嵌まります。
感覚的には、短いほうが「ヤポーニャ」、長いほうが「ヤポーニア」くらいの違いだと思ったほうがいいかもしれません。余りに違いを強調しすぎる発音は、お薦めしません。
なぜこういう違いが出てくるかというと、「格(casus)」が違うからです。実は、ラテン語の名詞は、格によって形を変えるのです。これを「格変化(declinatio)」といいます。このことはとても重要です。
「ex Iaponia venio」という場合の「Iaponia」は主格(casus nominativus)という格で、これは、名詞が主語になる場合の格です。つまり、格というのは、文中の働きを示すものです。
これに対して、「Iaponia patria mea est」という場合の「Iaponia」は、奪格(casus ablativus)という格です。奪格の用法にはいろいろありますが、主として、名詞を副詞化するための格(動詞に係る格)だと思っておくとよいと思います。そのほか、この場合のように前置詞の補語になる用法があります(「前置詞が奪格を支配する」といいます)。
しかし、もともと動詞に係る格なので、前置詞が省かれてしまうこともあります。例えば、
unde venis?
「どちらのご出身ですか?」
と訊かれて、
ex Iaponia venio.
と答えてもいいですが、単に
Iaponia venio.
と答えてもいいです(Iaponiaのaは長音です)。
「格」という感覚は、多分、ドイツ語などの格変化のある言語をやったことがある方々にとっては比較的とっつきやすいと思いますが、その他の方々には、少し難しいと思います。たくさんの例文に触れていくことによって、いずれ感覚的に分かってくると思いますので、今ムリに分かろうとすることはないです。
さて、ヨーロッパ人とラテン語で会話していると仮定しましょう。 あなたが「unde venis?」と訊いて、相手が答えてきます。 そのとき、一応、EU25か国は、言われて分かるようにしましょう。
まず、もっとも古くからいる6か国(欧州諸共同体の原加盟国):
e Belgio venio. Belgium patria mea est.
e Francia venio. Francia patria mea est.
e Germania venio. Germania patria mea est.
ex Italia venio. Italia patria mea est.
e Luxemburgo venio. Luxemburgum patria mea est.
e Nederlandia venio. Nederlandia patria mea est.
ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、ネーデルラント(オランダ)です。なお、exは子音(hを除く)の後では、eに約まります。
次に、2004年4月までに加盟していた9か国。
e Britania venio. Britania patria mea est.
e Dania venio. Dania patria mea est.
ex Hibernia venio. Hibernia patria mea est.
e Graecia venio. Graecia patria mea est.
ex Hispania venio. Hispania patria mea est.
e Lusitania venio. Lusitania patria mea est.
ex Austria venio. Austria patria mea est.
e Finlandia venio. Finlandia patria mea est.
e Suecia venio. Suecia patria mea est.
順に、ブリテン(島)、デンマーク、アイルランド(島)、ギリシア、スペイン、ポルトガル、オーストリア、フィンランド、スウェーデンです。
最後に、2004年5月1日に加盟した10か国。
ex Estonia venio. Estonia patria mea est.
ex Hungaria venio. Hungaria patria mea est.
e Lettonia venio. Lettonia patria mea est.
e Lituania venio. Lituania patria mea est.
e Polonia venio. Polonia patria mea est.
e Tzekia venio. Tzekia patria mea est.
e Slovakia venio. Slovakia patria mea est.
e Slovenia venio. Slovenia patria mea est.
e Melitta venio. Melitta patria mea est.
e Cypro venio. Cyprus (Cypros) patria mea est.
順に、エストニア、ハンガリー、ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、スロヴェニア、マルタ、キプロスです。
何か気づいたことはありますか?
主格が-aで終わっている国は奪格も-aで終わっているのに対し、-us・-umで終わっている国の場合は、奪格が-oで終わっていますね。
このことに気づいていただければ、今回の目標は達成です。
第4回 練習問題:ロールプレイ
私の質問に答えて下さい。
unde venis?
・・(あなたの番です)・・
うまく言えましたか?
第4回 まとめ
- ラテン語の名詞は格によって形を変える(declinatio)
- ラテン語の格
- nominativus(主格): 主語になる格(casus)。
- ablativus(奪格): 主に動詞修飾語になる格。
- 前置詞は特定の格を支配する
- ex (e): 奪格を支配する。