「こんなに分かりやすいラテン語講座があったのか!」

らくらくラテン語入門

第7回 奪格(3)

SALVETE! UT VALETIS? Justusです。

先週号の配信のあと、竹沢様よりとてもよい質問をいただきました。 GRATIAS AGO(どうもありがとうございました)!

竹沢様のご質問は:

「奪格」とはどういう意味ですか?

というものです。今日は、これについてやや詳しく学びましょう。

これまで、「奪格」とは、前置詞の補語になるとか、手段を示す格だとかいう説明をしてきましたが、それではなぜ「『奪』格」という名前がついているのかという疑問が出てきます。

これまでに出てきた主格・対格については、

  • 「主」格:動作の「主」体を表す格
  • 「対」格:動作の「対」象を表す格

ということで、納得がいくと思うのです。しかし、「奪格」というのは、いかにも変な名前です。

そもそもこの「奪格」というのはラテン語の直訳で、ラテン語ではcasus ablativusといいます。casusは「格」、ablativusはauferre(持ち去る・奪う)の形容詞形ですから、直訳して「奪格」です。しかし、なぜこんな名前がついたのでしょうか。

実は、奪格には、「分離の奪格(ablativus separtionis又はablativus separativus)」という用法があり、これは、「何かから、又は、どこかから引き離す、ないし、離れている」ことを示すのに使います。

例えば、次のような例文があります。大文字で書いてあるのが奪格です。語彙が少し難しいので、無理に覚えなくてもいいです。奪格の名詞が「動詞の補語」として使われていることをご理解いただければ十分です:

  • aliquem GALLIA prohibere
    (誰々を「ガリアから」遠ざけておく=誰々をガリアに入れないようにする)
  • aliquem VESTE spoliare
    (誰々を「衣服から」剥ぐ=誰々から衣服を剥ぐ)
  • parietes ORNAMENTIS nudare
    (壁を「飾りから」取り去る=壁から飾りを取り去る)
  • VITIO carere
    (「欠陥から」免れている=欠陥がない)

とりあえず、分離の奪格を「~から」と訳してみましたが、日本語の「~から」とはかなり用法が違います。そこで、日本語の考え方をひとまず捨てて、この四つの例文をじっと見てみます。

そうすると、どうも対格にはメインとなるようものが来ているらしいことが分かります。人と場所、人と物だったら、人のほうがメイン。壁と飾りだったら、壁のほうがメイン。

そして、奪格はそのメインのものから離れていることを示す格だ、ということです。こういう語感を「奪うような(ablativus)」と表現したのでしょう。

Thomas Meyer『Memoranda』(2. Aufll, 2001 Stuttgart u.a.)は、この分離の奪格を説明するにあたって、次のように述べています。

「(auferre「持ち去る」からきた)Ablativusという名称は、「持ち去る格」という意味だ。 だから、「Ablativ〔奪格〕」という名称は、その意味のうち、ほんの一部にしかあてはまらない。とはいえ、文法上の概念というのは、「文字通りに」意味をとってしまうと、それが指している内容に較べて、まったく不完全な名称となってしまうことが多いんだ(残念ながら!)。だから、奪格については、そのときどきでどういう使い方をされているのかを付け加えて考えるようにしよう。」(54頁、原独文)

確かに、日本語でも似たようなことはあります。例えば、日本語の「と」という助詞も、使い方は一つではありません。

  • 「AとB」:二つのものをくっつける。
  • 「Justusと」:「一緒に」の意味。
  • 「サラサラと」:様子を表す。
  • 「『おはよう』と」:言った内容を表す。

もっとも、「と」自体を指す文法用語はないので、少し状況は異なりますが。

いずれにせよ、これと同じように、奪格も使い方はいろいろあります。分離の奪格以外には、主に次の用法があります:

  • 方法の奪格「~に」(「熱心に」など)
  • 手段の奪格「~で」(「棍棒で」など)
  • 時の奪格「~に」(「三年目に」など)
  • 観点の奪格「~で」(「勇敢さで(勝っている)」など)

ラテン語は、今はあえて示しませんでしたが、そのうち例文とともに出てきます。

これ以外のものは、前置詞を伴うことが多いので、とりあえず考えなくていいです。前置詞の意味を勉強すれば、自然に分かります。

こう見てくると、日本語の「~に」とか「~で」と、だいたい語感が似ているという感覚がつかめてくると思います。

そうすると、次の三つぐらいに分類できます。

  • 分離の奪格(「~から」)
  • 「~に」「~で」の奪格
  • 前置詞の補語になる奪格

今日は、このことを理解していただければOKです。

これからお話しする内容を先どりして例文抜きでお話したので、何となく、抽象的な感じで、分かったような、分からないような、そんな感じかもしれません。それでいいと思います。いずれ本格的に出てきたときに、今日理解したことが、役に立ってきます。

第7回 まとめ

  • 奪格(ablativus)
    • 分離の奪格:特定の動詞(spoliare、nudareなど)の補語になる。
    • 「~に」「~で」の奪格:方法・手段・時・観点
    • 前置詞の補語になる奪格:e (ex)など。

今日は、文法の説明だけで終わってしまいましたが、竹沢様のご質問には一応お答えできたのではないかと思います。計画から脱線したわけですが、たまには、こういのもいいと思います。講義がインタラクティヴになるのは、とてもよいことです。

それではまた。 VALETE!

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